「コロナ債」は欧州を救うのか、沈没させるのか

欧州連合(EU)では、新型コロナウイルス対策で必要な資金を調達するための「コロナ債」というEU共通債の発行が検討されている。通貨同盟に加盟している19カ国すべてが連帯責任を負うもので、現状それを支持しているのはイタリアやスペインなどの9カ国、ドイツやオランダを含めた10カ国は納得していない。不支持国に対し、イタリアの政治家グループなど、南諸国民は激怒している。

2012年、元米連邦準備制度理事会(FRB)議長のポール・ヴォルカー氏は、ユーロ危機の最中に欧州連合(EU)を訪問し、当時議題にあがっていた「欧州債」を非難した。その際引き合いに出されたのはアレクサンダー・ハミルトンが行った債務整理だ。筆者は、ヴォルカー氏の主張に今一度スポットをあて、欧州の「コロナ債」のやり方、ハミルトンの債務整理と比較している。

アメリカ初の財務長官であるアレクサンダー・ハミルトンは、アメリカ独立戦争の為に生まれた13州の債務を、連邦政府が肩代わりするという方法を用いた。ハミルトンは州からきれいに借金を奪い、それを連邦政府という別の組織に移した。連邦政府は同時に、新たな債務を返済するために税収を増やす権限を与えられた。最終的に、すべての州がドイツのような均衡予算制を採用し、連邦政府は総需要を管理するための財政政策などの機能を担うことになった。欧州債とコロナ債との大きな違いは、加盟国が発行した債券はユーロ圏のすべての国が保証することになっている点である。つまり、カリフォルニア州が州債を売り、全米50州がそれを保証するようなものである。テキサス州の人がそれに対し熱狂的に考えられるだろうか?こう考えれば、EU諸国が他国のことに熱くなれるわけはないことが分かるだろう。1950年代に始まった欧州連合は、通貨同盟を果たしたが、引き継ぎ必要になるのは完全な銀行、資本市場、財政統合である。 米国債に匹敵する欧州債を発行することこそが、今、すべきことであろう。

ユーロ危機時、ユーロ債の提案は幾度も変更され続けたものの結局欧州債のアイデアには行きつかなかった。今回も債券を返済するための税収は、個々の加盟国で行われ、各国の議会が課税と支出の方法を決定することになるだろう。当然のことながら、オランダ人、ドイツ人、オーストリア人、フィンランド人などは、南部の議会がピンチの時には北部の税ユーロが債権者に返済してくれることは理解していながらも、税収が少なすぎて支出が多すぎるのではないかと危惧しているのだ。それを回避するため、北の加盟国はより厳格な財政規則を主張するだろうが、イタリアやスペインはそれを好まないだろう。

 

EU全体に将来的におそらく起きうる物語を2つあげよう。

①北の加盟国はあらゆる形の相互債権の発行を頑なに拒否する。 南部の人々は、この連帯感の欠如に憤慨。イタリアのマッテオ・サルビーニ氏のようなナショナリストやブリュッセル叩きのポピュリストに傾倒し、彼らは自国をユーロから、そしておそらくEUからも離脱させる。

②北の加盟国は、コロナ債に端を発しそこから拡大していく相互債務に合意する。 しかし、南の加盟国はコロナによる不況が終わったあと、ブリュッセルから課せられた緊縮ルールによって屈辱を受ける。 そして、北の人々は、苦労して稼いだ税金が南部の底なしの穴に流れ込むという恐ろしい 結末を迎える。それは後にナショナリスト、ブリュッセルを非難するポピュリストに変わり、最終的に北加盟国もEUを離れることとなるだろう。

だから必要なのは、確かにハミルトンにならった債務整理、米国債に匹敵する欧州債である。 ヨーロッパは、その歴史的な一歩を踏み出し、債券を発行し、直接税を課し、連邦政府を立ち上げなければならない。事実上、ユーロ圏に必要なのは政府であり、財務官と立法府であり、それは欧州議会のサブグループとなり得る。 最初は小規模なものだったとしても、時間の経過とともに、各国から例えば失業保険などの役割を引き継ぐこととなるだろう。

そのためには、ヨーロッパの条約の変化が必要になり、さらには各EU民の心がハミルトンの時代と同じように変化することが必要になるだろう。それこそが究極の違いなのかもしれない、つまり1790年のアメリカ人は本当にアメリカを望んでいたのに対し、2020年のヨーロッパ人はEUを望んでいないのである。

 

【GUI解説】

下記はイタリアの看護師が自国の医療現場の危機を訴えている画像です。

※目の周りのデキモノは医療用ゴーグルの過度使用と疲弊によるもので感染者ではない。

危機的状況にある国にとっては救済措置が必要であることは明確です。

感染危機が深刻なイタリアやスペインなどはもはや一国で対処しきれない事態となっており、南欧諸国が求める救済基金に対して、財政規律を重んじるドイツやオランダが、他国への債務の付け替えと見て強く抵抗するという南北対立となっていましたが、イタリアの状況が深刻化すれば、欧州連合の存在自体を揺るがしかねないのですし、加盟国にとっては「コロナ債」発行の一択しかないでしょう。

本年3月には、イタリアの10年物国債の利回りが一時3%を超えて急騰。欧州中央銀行(ECB)がユーロ圏の国債などを追加購入する7500億ユーロ(約88兆円)規模の資産買い入れ枠を設け、ひとまずは市場を沈静化させた。

上記から、「コロナ債」は欧州連合の連帯を試すための試金石などと呼称されていますが、まさにその通りだと思います。

一方、南欧諸国よりも感染が拡がるイギリスについても言及すると、イギリスのコロナウイルスによる死者数はアメリカに次いで2番目に多い。これは、欧州連合離脱による経済的影響に配慮し、できれば自粛要請で済ませたいという思惑が働いていたからではないでしょうか。

 

日本は死者や重症・重篤者の増加率はまだ低いとはいえ、東京や神奈川、福岡の医療機関は感染者であふれています。いくら大陸が続いていないとはいえ、これだけの数の感染者が存在するにもかかわらず、日本だけが例外ということはあり得ません。強制力を伴わない日本の対応が十分なのか、疑問を持ちます。そうは言っても、政府関係者、医療従事者、業務系システムエンジニアを職業とする方々が出勤をしないという選択肢は取れないでしょう。しかし、ロックダウンには賛成します。ロックダウンによる経済降下、救命される命の数の減少は否めませんが、同様の方針で大恐慌となりつつあるイギリスの状況から習うとやむを得ないのではないでしょうか。

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