今、旅行を計画する人々は、フライトキャンセルの可能性をどこまで考慮しているのか

コロナの影響で、フライトは安価でお得なものだらけ、変更やキャンセルも気楽にできるようになった現在。旅行プランを立てるとき、ボタンを選択し、クリックして、購入するまでの間に、リスクをほとんど考えてない人もいるだろう。

今、コロナウイルスの世界的な蔓延によって、旅行することや旅行計画をたてることも困難になっている。

3月12日、世界保健機関がパンデミックを宣言した翌日。テキサス州コッペルに住む弁護士セリ・キム氏は、前から目をつけていたバルバドスへの5月のフライトに必要なアメリカン航空マイル数が、77%引きの13万から3万に減ったことに気づいた。

そこから、彼女の旅行計画を立てる4日間が始まった。 バルバドスに加えて、仕事のためにアパートを借りているワシントンD.C.までの航空券を、サウスウエスト航空で6往復分購入した。このチケットは3月下旬から使える。9月まで延長可能なチケットは通常183ドルかかるが、今回は一人99ドルだった。 続いて、通常330ドル前後かかる、4月下旬マイアミへのフライトを93ドルで購入。さらに、7月ケープタウンへのサファリでのバカンスにむけ、往復約900ドルチケットを予約した。これは、2016年、南アフリカ行きフライトに支払った金額の約半分だ。こうした、41歳のキム氏がハマったものは、フライトの『サヤ取り』と呼ばれる。現在、安価な航空運賃のお得情報はあふれている。各航空会社の変更条件やキャンセルポリシーが以前より緩和されたことによって、一部の旅行者は、ボタンを選択し、クリックして、購入するまでの間に、リスクを考えはしない。彼らは、旅行に行けるくらいに、コロナの状況が良くなると賭けている。仮にそうならなかったなら、チケットは今後の旅行へと回していけば良いのだ。

「今までは有り得なかった『サヤ取り』売買が、今ではできてしまうようになった。」200万人以上の会員を持つオンラインアラートサービスのスコットズ・チープ・フライツの創設者、スコット・キーズ氏は述べている。「運賃が低価格なだけでなく、仮に旅行をしない場合はキャンセルできる場合もあります。そう言う状況を利用している人々は確実にいる。彼らは祈りながら、現状が好転して安心な世の中になった時のことを想定して、フライトを予約しているのです。」

渡航中止勧告や国境閉鎖がある現状を踏まえ、スコット社では7月以降のお得な格安航空券キャンペーンを実施している。そこで取扱うのは変更手数料やキャンセル料を免除する航空会社のフライトに限定している。

医療関係者のカレン・バローズ氏(56歳)は、4月の日本行きツアーがキャンセルされた後、スコット社の格安航空券を利用して、9月発のニューヨークからアテネ間の往復航空券を282ドルで購入した。「自分を慰めるために買った、日本旅行がキャンセルされ失望していた後で、何かワクワクするものが欲しかった」とニューヨーク州フェウラブッシュに住んでいるバローズ氏は語った。また、払い戻し不可の宿泊施設は、今の段階では予約する気はない、という。9月のニューヨークからのアテネへのフライトは1,000ドル以上になることが多い。しかし、彼女が比較しているのはその相場ではなく、2年前に同間のフライトに払った446ドルという額面だ。

こんにちの実際の価格帯を比較するのではなく、消費者本人が記憶している価格帯――彼ら自身も、自分がそういう指標を持っていることに気づいていないかもしれないが――と比較をして、彼らは購入している、とプリヤ・ラグビール教授は述べている。彼女は消費者心理と出費の関連を研究する、ニューヨーク大学スターンスクールの教授だ。

コロナウイルスの流行前に、「L.A. Family Travel」というサイトの編集長であるリナ・バラズ・ネダー氏は、ロサンゼルス・ローマ間の往復便をチェックしていた。 3月上旬に、彼女はオヴァゴと言うオンライン旅行代理店で400ドルのフライトを見つけた。「次の旅行の予定は8月なのだけど、どうか無事旅行できますように、バーゲンで買い物できますように、と祈っている。いつも学校の休みのハイシーズンの時期しか旅行が出来ないから、高い値段を払うしかないのだけど、低価格で安心した」とバラズ・ネダー氏(45歳)は言う。

バラズ・ネダー氏が見つけた格安の夏フライトは、もちろんコロナウイルスに起因するものである、と格安航空券を扱うスコット社のキーズ氏は述べている。この40年間で空の旅は一般的に安くなってはいるが、夏休みシーズンは高価であっても売れるために値段は安くならないことが多かった。

また、国際航空輸送協会の最近の分析いわく、航空会社は最終的にキャンセルする可能性もある顧客のために、今年の第2四半期中に610億ドルの現金準備を使い果たす準備ができている。これは航空会社の戦略ともいえる。「まだ先が見えない旅行に備えて安いチケットを販売することは、航空会社を活性化し、旅行を楽しみにワクワクする消費者の気持ちを引き出すひとつの良い方法である 」。経営コンサルティング社オリバー・ワイマンの上級副社長である、カリド・ウスマン氏は言う。

安価な航空運賃はイールド(1マイルあたり、乗客1人あたりの平均運賃、の意)に影響を与える一方で、需要を生み出しもする。フライト価格を分析・予測する旅行予約アプリ「ホッパー」の新しいデータによると、国内線の往復航空運賃は昨年より約41%、2018年より約44%下がっている。

ホッパーのエコノミストであるヘイリー・バーグ氏は、今年後半にフライトの需要がシフトする、海外旅行の需要は8月までは回復しないと見ている。格安の旅行情報サイトやアプリ運営をするスカイスキャナーは、3月頭と比較したところ、3月末には8月、9月、10月出発のフライト予約がわずかに増加していた。

しかし、事実上の買い手市場でフライトを入手した、旅行を夢見ている購入者達は、どんな代償を得うるかを知っておくべきだ。「世界各国政府は、航空会社の財政的支援を計画しているものの、航空会社がフライトをキャンセルしたり、最悪の事態では航空会社が廃業したりするなど、旅行者にとっては財政的なリスクが残っている。」とウスマン氏は述べた。

4 月上旬に運輸省によって新たに取り決められたポリシーによると、乗客のフライトがキャンセルされた場合 (もしくは実質上、変更された場合)コロナウイルスに関連する理由であれば現金の払い戻しを受けることができる。渡航制限勧告や需要の減少に直面し、航空会社の多くは現在既にサービスを大幅に縮小している。

しかし、個人的理由でキャンセルをした場合は、バウチャーを受け取ることになる。このバウチャーは、購入額よりも高い値段のチケットは補償していなかったり、また多くの場合は予約日の12ヶ月後に有効期限が切れる可能性がある。こうした理由から、昨年仕事で30万マイルを飛んだ経験豊富な旅行者でも、航空券の購入には踏み切らない人もいる。香港在住の、投資戦略家のネルソン・ユアン氏がその例だ。

「現金というのは不安定なものです。 今のところ多くの航空会社、キャンセルポリシーとは相反して、事実上払い戻しをしていません。つまり現金が不足しているので、クレジットを押し付けているのです。つまりそれは、短期ローンを組ませているのと同じことです。」このようにユアン氏(37歳)は言う。

冒頭に挙げたキム氏は、予約していたホテルの閉鎖ゆえに、マイアミ旅行をキャンセルせざるを得なくなった(キャンセル料は無しで。)しかし、バルバドスや南アフリカを含む広範囲に及んで、外出禁止要請や到着時検疫勧告が出ているのにも関わらず、他の渡航計画については取り消す気はないようだ。

「航空会社がフライトをキャンセルしない限りは行くつもりです」と彼女は言った。

 

【GIU解説】

新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、ANAやJALをはじめとする大手航空会社は対応に追われています。

フライトが運休した場合、航空券のキャンセル料が発生するかどうかは各航空会社の判断次第です。出発間際になってもキャンセル料は発生せず、全額払い戻しの特別対応をする航空会社もあります。

ANAは以下対応をとっている:

対象航空券(ANAの特別対応)

・発券日 2020年2月19日発券分まで

・搭乗日 2020年4月20日搭乗分まで

・路線 中国空港発着路線(香港・マカオを含む)

※上記条件をすべて満たすANAで発券された国際航空券は手数料なしで払い戻し・変更可能。

 

JALは以下対応をとっている:

対象便(JALの特別対応)

・北京線、上海線、広州、大連線天津線

・香港線

・ソウル線、釜山線

・台北線

※上記の航空券をご購入済みの方は以下の予約確認画面から手数料なしで払戻し・変更可能。

※旅行会社経由でJAL航空券を購入した場合は旅行会社に問い合わせる必要あり。

上記、大手2社だけをみてもこれだけの違いがあるのだから、航空券を購入する際はLCC・海外航空会社も含めそれぞれのキャンセルポリシーを確認してから購入するか否かの検討が必要です。また、新型コロナウイルスの影響によるキャンセルをしても、通常と同じキャンセル料がかかる場合もあるのでこの点も要注意です。

さて、ここで重要なのは、国際航空券は直前にチケットを購入すると高くなるため、何ヶ月も前から予約するのが一般的なのに対しこれだけの緩和を行っている航空業界が、今後キャンセルの頻発を受けると仮定してみると、これは業界にとっては痛手の応酬となることは間違いない。現金不足の航空会社は倒産に追い込まれ、払い戻しを受けられなくなる可能性も消費者として考慮しなければならないでしょう。

  • この夢のような航空価格を存分に利用し、搭乗できることを祈るのか
  • 例えキャンセルしたとしても払い戻しを受けられると楽観視するか
  • リスクを考え購入をしない選択をとるのか
  • はたまた、航空業界への救済と捉えリスクを承知の上で購入に至るのか

航空券の購入を検討中の方々には、上記いずれかの選択を慎重に行った上で購入を行っていただきたいです。

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